2002/01/12発信:一般向けニュース
■ 北京一人旅紀行 その3
三日目
次の日の朝、ハードな一日を過ごしただけ有って、さすがの俺も朝が辛い。
実の所、話がおもしろくなくなるので触れなかったが、日本にいるときから風邪気味で、中国に着いてからも、風邪薬を買って飲んでいたのだ。
「それだったら少しはおとなしくしてろ!」(天の声)
さて、さすがに朝飯に間に合うように起きることは出来なかった。
それでも、今回の旅行の目玉『故宮』に行かなければならない。
昨日でガイドの必要性を痛感したので、早速ツアーの受付に行き、ガイドの依頼をする。
しかし、その日は土曜日のために、ガイドは予約がなければ待機などせずに何処かへ遊びに行っているので、連絡が取れないとのこと。
「仕方ない、一人で行くとするか!」
また英語も日本語も通じない戦いをしなければならないことに、少々うんざりとした。
出かける前にホテルで少々早めの昼食を取った。
食事については、決まり切ったこの感想!。
「美味い!」
ホテルの一階に有る中華料理の店だった。
チャーハンとヌードルを注文したが、そのチャーハンが日本で言えば『アン掛けチャーハン』の様で、パリッと炒めたご飯の上にアンが乗っていて、非常に美味い!
ヌードルも『トマト味、温っか冷や麦?』ってな感じで、これが又美味いんだな〜!
しかし、チャーハンの量が多すぎて食べきれなかった。
「俺が食事を残すなんて、まだ体調が悪いのだろうか?」
と、心配になってきた。しかし、これ以上食べると戻してしまいそうだ。
「ハオ・チュー!」(美味しかった)でも御免ね、食べきれなくて残しちゃった」
「これは三人前の量ですから、仕方ありませんわ」
と、にこやかな笑みで返事が返ってきた。
「は〜! どうりで食べきれないはずだぜ!」
彼女にしてみれば、「良く食べる日本人だわ!」
と、感心していたようだ。
・『建国門駅』(ジェングオメン・フゥオチャージャン)
ホテルの前の道を渡ると、地下鉄の入口を示す『D』の表示がある。
入り口で三元を払い、地下へと階段を下りる。
『建国門駅』は、地下鉄1号線と環状線の交差するターミナル駅だ。
駅の中に入ったものの、一体どの電車に乗ればよいのか分からない。
ホームの中には、例の緑の制服を着たおばちゃんが立っていた。
「ティエンアン・メン(天安門)?」
おばちゃんは怒ったように、ホームの先を指さす。
どうもこの先の階段を上がって、隣のホームに行けと言っているようだ。
「シィエシィエ」とは言ったものの、
「なんでこんなに怒ったように言われなきゃならねぇんだよ!」
と、内心腹を立てながら歩いていく。
階段を上ると、クロスするようにもう一つのホームが現れた。
「さて右のホームか左のホームか?」
などと、まわりを見渡すと、貼紙が目に飛び込んできた。
さすがに、地元の人々にも人気のスポットだけのことはある。
「天安門」と書かれた貼紙の前に立ってると、間もなく電車はやって来た。
中国人のマナーは決していいとは言えない。降りる人を待つよりも、我先にと電車内に飛び込んで行く。
「チェッ、しょうがねえな。でも『カーッペッ!』よりはましだけどな……」
三つ目が『天安門東駅』、四つ目が『天安門西駅』だ。
「さ〜て、どっちで降りようか?」
悩むほどのことはないので、『天安門東駅』で降りる。
結構、下車する人が多い。
「どうせ天安門に行くのだろう」
人の波の流れていく方向に、俺も足を踏み出した。
地上への階段を上がると、初日に道の向かい側から見た天安門が間近に見える。
・『天安門』(ティエンアン・メン)
物凄く大きな門と言うよりお城のような建物で、故宮の入り口に位置している。
中心に掲げられた『毛沢東』さんの写真の両側には、
『中華人民共和国万歳』『世界人民大団結万歳』
と、でっかく掲げられている。
「凄い人の数だな!」
そこには、『毛沢東』さんの写真に、おじぎをしている人や、カメラを持って写し回る家族連れなどがひしめいていた。
「俺も写真を撮ってもらおう」
結構今までにも写真を撮ってきたが、その殆どが自分で自分を撮った物で、後で現像したら俺の顔ばかりアップで、後ろの景色が全く写っていなかった。
撮っているときから、そうなることを予測していたが、とても他人に見せられる代物ではない。
そこで、たまには人に頼み込むことにした。
「ウェイウェイ!」
近くにいたアベックに声をかける。
怪訝な顔をする二人に、にっこりと微笑みながらカメラのボタンを指さした。
「なによこの人! 気持ち悪いから無視しましょう!」
と、言ったかどうか分からないが、女が男の腕を掴んで、サッサと行ってしまった。
俺はカメラを抱えたまま固まってしまった。
「てめえの顔の方が怪しいだろう!」
気を取り直して、家族連れの親父に声をかける。
「ウェイウェイ!」
今度は怪しまれないように、とってもさわやかな笑顔で(自分ではそのつもり)声をかけた。
やはり大抵の人は声をかけるとビックリする。
発音や俺の顔の性ではないと思うのだが、見知らぬ人に声をかけられることを、用心しているのだろう。
台湾?から来た家族連れは、やっと理解したのかカメラを受け取り、シャッターボタンを押した。
その後も、人の良さそうな人を見かけては、何枚か撮ってもらった。
頼んでおいて失礼ながら、みんな『下手くそ』である。
めったに写真を撮らないのか、無頓着なのか、現像した写真でまともなものは少なかった。
建物の上部分が切れていたり、俺の足元の単なる石畳が半分以上を占めていたり……etc。
さらに驚いたのは、日本で言えば皇居にあたる場所にも関わらず、ここでも『カーッペッ!』と、あちこちでやっているのだ!
下を見て歩くとげんなりするので、なるべく見ないようにして歩くことにする。
故宮全体は堀で囲まれていて、天安門をくぐるために、五つの橋が掛かっている。
俺はその真ん中の橋から、『毛沢東』さんを見上げながら、奥へと進んで行った。

天安門 |
・故宮博物館(グーゴン・ボーウーユェン)
紫禁城(しきんじょう)
天安門をくぐり、その先にある故宮を目指した。
故宮は別名、『紫禁城(しきんじょう)』と呼ばれ、
ベルナルド・ベルトリッチ監督の映画、
『ラスト・エンペラー』では、『ジョン・ローン』扮する宣統帝や、多くのシーンがここで撮影された。
その他にも、『西太后』の物語りのテレビや映画などのシーンを、思い出される方も多いことだろう。
天安門を過ぎると、目の前に広がる『端門』を通り、左手に中山公園を、右手に労働人民文化宮を見ながら歩いていく。
歩くときには物凄く広い通りではあるが、真ん中を歩いた方が良い。
真ん中には1mほどの幅で少し盛り上がった大理石の道が続いている。この真ん中を歩くことが出来るのが、王様だけの特権なのだ。
自分がちょっとだけ偉くなったような気がして、無茶苦茶良い気分で歩いていると、当然同じ事を考えているやつが一杯いて、ぶつかりそうになりながらも、皆その道から外れないように(落ちないように)歩いていく。 そのまま歩いていくと、両側にそびえ立つ巨大な壁と、その上にそびえ立つ宮殿(これが角楼か?)といい、その凄さに圧倒されてしまう。
思わず口を開けながら見上げてしまった。しかし、それは只の始まりでしかなかった。
そこは、今からいくつも現れる宮殿、紫禁城の、
“入口”だったのだ。
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故宮
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南門『午門(ウーメン)』に行くと、チケットが必要だった。
側に売店らしきところがあり、入っていくと単なるお土産屋で、チケットは向こうだと言う。
それらしき所は見えないが、片手にチケットを持っている人が歩いてくる方へと向かった。
何のことはない。先ほど見上げていた石壁の横にチケット売り場は有ったのだ。
「なんで、こんな入口と離れたところで売ってんだよ!」
と、ブチブチ言いながら10元を渡すと、お礼を言うどころかチケットを投げてよこしやがる。
これは俺の態度が悪いわけではない。どこのチケット売り場であろうとも、必ず投げてよこすのだから。
またもや勉強タイム!
紫禁城の“紫”とは、【天帝の座・紫微星】を表し、ここが宇宙の中心であることを示している。
1417年(永楽15年)に、明の成祖永楽帝が南京から都を遷し、20万人以上の労働力で15年かかって築き上げた。
外壁の高さは10メートルも有り、四隅には角楼が建っている。
東西南北に各1門があり、南が午門、北が神武門、東が東華門、西が西華門と呼ばれている。
その外側を、幅52m、全長3800mの筒子河が取り巻いている。
それはさて置き、いざ中へ!
故宮博物館と言った方が、分かり安いかもしれない。
まず、先程の入り口『午門』から中に入って驚ろく間もなく、目の前に雄大に構える宮殿が現れた。
と、思ったのは只の門で、『太和門(タイフーメン)』と言い、その奥に本物の宮殿、『太和殿(タイフーディエン)』が構えている。
さらに、『中和殿(ヂョンフーディエン)』『保和殿(バオフーディエン)』『乾清門(チェンチンメン)』『乾清宮チェンチンゴン)』と、続くのだ!
まだまだその先にも、いやいや左右にも、いくつもの宮殿や『絵画館』や『珍宝館』(何を展示しているのだろうか?)が、点在するのだからとてつもなく広い。
その全てを一日かけても、見ることも伝えることも出来ないであろう。
京都の『平安神宮』に行ったことがある人は、それが行けども行けども『金太郎アメ』の様に現れるのを、想像すればよい。
単に真っ直ぐ歩いてみて回るだけでも大変なのだから、横に有る建物はどうしようか?
見なければもったいないし、でも、うんざりするほど一杯有るし……。
少しだけ横道にそれた。
日本だと、係員が随所に立って、いたずらなどをしないように見張っていそうな場所であっても、誰もいやしない。
サビだらけのベンチの上で座っているアベックは、どう見ても只の壁をバックにして写真を撮っている。
「何が楽しいのかね〜?」
そのまま進んでしまっては、迷子になりそうなので引き返した。
とにかく、歩き回ること約三時間、『神武門』をくぐり抜け外へ出る。
「いや〜! 凄かったな〜!」
などと余韻に浸かる暇もなく、声をかけられる。
タクシーの師傅なのだが、そこにいる十数人の運ちゃんみんなが、『海底都市探検』と書いたプラカードを持っている。
プラカードには、サイパンやグァムなどでも見かける、潜水艦の絵が書いてあった。
「海は確か、『天津』まで行かなければないんじゃなかったかな?」※北京から天津までは南東へ約140km
質問しようかと思ったが、客が少なく結構血走った目をしているので、無視をした。
目の前には小高い山があり、その上に中国風の建物が見える。
・『景山公園』(ジンシャンゴン・ユエン)
故宮の北に位置する小高い丘は、『紫禁城』の堀を作るための残土で出来ていた。
二元を払う。投げつけられたチケットを何も言わず受け取り、もぎりに渡す。勿論半券は記念に持って帰る。
中に入ると、よく掃除のの行き届いた公園という雰囲気で、特別に何もない。目指すは頂上だ。
さて、どこにも上に登るための案内がない。
適当に、上に繋がっている小道(と呼べるかな?)を、登ってみることにする。
30cm程の幅の道を登っていくと、正解かどうかは別にして、頂上に辿り着いた。
「てやんでっ! この程度の坂道は、万里の長城で鍛えられてるサ!」
強がりを言っては見たものの、真っ昼間と言うのに、吐く息が白くなるほどの寒さにも関わらず、俺の額に汗が滲む。
景山からは、45mの高さとは思えないほど、故宮だけでなく北京全体を見渡すことが出来た。
あまり高い建物はないのは勿論、東京よりは空気が澄んででいるのかもしれない。
ホテルのある建国門の辺りは、オフィス街でも有るので、比較的背の高い建物が多く直ぐに分かった。
「さて、写真も撮ったし帰るとするか……」
確認したホテルの方向へ、ぶらぶらと歩きながら帰るのも面白そうだなと変な思いが頭をよぎる。
とても歩いて帰れる距離ではないが、なんとなく、そのままタクシーに乗るのが、もったいなく感じたからだ。
さらに素直にもと来た道を帰ればよいものを、裏手に広がる町並が気になり、先程よりもっと狭い道を降り始めた。勿論、だ〜れも歩いていない。
下まで降りたは良いが、さて、どちらへ行こうか? 公園では若いアベックがバトミントンをしたり、子供達が小っちゃなボールを蹴って遊んでいた。
適当に右の道を歩いていく。
公園の横には、なんと牛舎が有り中では牛が数匹繋がれていた。
「なんで、こんな公園の横で牛飼ってんだよ!」
餌置き場の横を抜けていくと、藁を積んだ車が止まった。
車の運転手が怪訝な顔をして俺を見ている。
素知らぬ顔をして通りすぎる。
その先にも、廃屋になった家とも牛舎とも分からない建物が有る。
「なんだか、とんでもない所にトリップしたみたいだな?」
などと、考えながらも妙にワクワクしてきた。
「どうも、マゾっ気が有るみたいだな!?」
通りの向こうでは幼稚園の様な建物が有り、その横のちっちゃな公園で、おじいちゃんも子供達も一緒になって遊んでいた。
「昔の日本もこうだったんだろうな?」
何となく懐かしさを覚えしばらく眺めていた。
ふと隣のマンションの様な建物に目をやる。
やはり相当寒いのだろう、ベランダなどは存在しない。
しかし、さらに上を見て驚いた。
屋上に乗っかるようにして、仏殿の様な建物があった!
一瞬マンションと思ったのは間違いだったのかと思ったが、良く周りを見渡すと、殆どのマンションの上には、同じ様な仏殿? が建てられていた。
「はい、住民の皆さん朝になりましたよ。お祈りの時間ですから、屋上の○○にお集まりください!」
などと、アナウンスがマンション中に響き渡り、全員が集まって、『般若心経』でも唱えるのだろうか?
そのまま、ホテルの方向へ歩き始めた。
今度は、途中出会ったバスを見て驚いた!
屋根からアンテナのような物が生えているではないか! タクシーの中から何度もバスを見ているのだが、こんな物は日本でも見たことがない。
勿論、アンテナの訳がない!
『路面電車が電線から電源を取るためのコード、いわゆるパンタグラフだった』
と、言えば分かってもらえるだろうか。
電車のように、レールの上を走っているわけでもないのに、どうして外れたりしないのだろうか?
この通りには、上を見ると縦横にこの電線が張り巡らされている。
だからといって、どこを走っても大丈夫と言うわけではないだろうから、余程、決まったバスだけの車線が有って、その上を走っているのかもしれない。
と思ったら、あんに反して、バスの前を車は走るは、その車をバスが追い越していくは、めちゃくちゃと言えばめちゃくちゃである。
しばらく歩いていたが、行けども行けども見覚えのない街並みばかりである。
おそらく観光客でこの辺りを歩いているのは、俺しかいないだろう、と言う気にさえなってきた。
「さすがにこれだけ歩いていると疲れたな……」
かぜ気味だったことを思い出すと、余計に疲れが身体を襲ってきた。
諦めてタクシーを捕まえた。
あのまま歩いていたら、小一時間はかかったであろうと思われる距離を走って、タクシーはホテルに着いた。
すっかり顔を覚えたドアガールのお姉ちゃんが、ドアを開けてくれ、にっこりと微笑んでいる。
俺に笑い反す力は残っていなかった。
部屋に入ると、二つ有るベッドの窓側のベッドに倒れ込んだ。
身体から、気持の悪い汗が吹き出てくるようだ。
ベッドの脇の時計に目をやると、丁度七時を指そうとしていた。
昼前に食事をしたきりだったことを思い出すと、急激に空腹感が俺を支配した。
「しかし、ホテルの中の同じ店に2回続けていくのは、芸がないぜ!」
今かいた汗が引く間もなく、ベッドから起き上がった。
「さあ、どこかへ繰り出すとしましょうかね!」
かねの“ね”に力を入れながら、身体を持ち上げた。
「ホテルの近くにも色々な店が有るから、歩いて探してみるか?」
確かに、タクシーに乗ってホテルに帰ってくる度に、それほどのネオン街ではないが、直ぐ近くにレストランが有るのが気になっていた。
脱いだばかりのコートに袖を通し、エレベーターに乗り込む。
外は、昼間以上の寒さと風で、冬真っ最中を感じさせた。
「昨日の轍は二度と踏まねえぜ!」
などと、心に誓いホテルを出た。
ホテルを出て右に曲がると、直ぐにネオンが目に飛び込んでくる。
世界中のどこでも見かける、『M』のマークのチェーン店や、隣に有るホテルとの間に和食の店などがある。
「北京に来たのだから、北京料理に決まってっぺ!」
と、その前を通りすぎる。
食事の場所を決めかねてしまうと、どうにも決まらなくなってしまう経験を、誰もが一度は経験しているのではないだろうか。
「困った、困った!」と言いながら、時間が過ぎていく。
「えーい! ここに決めた!」
結局大通りに面した装飾の派手な店に入った。
ドアまでまだ5mもあろうかというのに、ドアガールがドアを開けて待っていた。
「イー・ガレン!」
右手の人指し指を立て、堂々といかにも一見の客じゃないぞとばかりに、威張ったように言う。
余談だが、歌舞伎町などを歩いくときも、自信がなさそうにキョロキョロとしたり、おどおどしていては鴨がネギをしょっている様なものだ。その要領である。
きらびやかな電飾に包まれたエントランスから、会談を下へと降りていく。
テーブルに案内され、メニューを受け取る。
「さーて何にしようかな?」
メニューなど見たって、チンプンカンプンで何て書いているか分かるわけがない。
さあ、知ったかぶりもここまでだ。
[What's this?]
メニューを指さし尋ねるが、またまたいつもの調子で言葉が通じない。
直ぐに彼女は席を離れると、もっと偉い人を連れてきた。
偉いかどうかは直ぐに分かる。小柄ながらも妖艶な色香が漂う美女だった。英語がペラペラな彼女は的確に俺の要望を理解し、そしてメニューを指さし説明をした。
彼女の言う通り、『魚のフライ』と『白菜のサラダ』と『蟹のボイルドフライ』を注文する。
彼女はオーダーを厨房に行き読み上げた。
待っていると、無性に米が食べたくなってきた。
昼間のチャーハンの味を思い出した俺は、最初に俺にメニューをもってきたウエイトレスに声をかけ、チャーハンを追加した。
生ビールを飲んでいると、美女が跳んできた。
なにやら、凄い剣幕でまくし立ててくるではないか!
余りの早口に聞き取れない。
「こんなに一杯は食べられないから、今のチャーハンはキャンセルしなさい!」
と言っているのを理解するのに時間はいらなかった。
昼間の3人前のチャーハンを思い出し、すぐに「OK」をした。
彼女の顔が穏やかに変わっていく。
彼女の名前は『馬・艶艶(マー・ツェツェ)』と言い、
この店のマネージャーだった。
その美しさもさることながら、こういう風に気の強いタイプは嫌いじゃないもので、またもや一目惚れをしてしまう。
「いかん! いかん!」
昨日のことを思いだし、冷静さを取り戻す。
そう言えば冷静になってみると、なんだかこの店の作りが変わっていることに気付いた。
いや、変わっているというのは変な表現で、高級感も有るし清潔なのだが、中国の雰囲気ではない。
『馬』の着ている服も、どう見てもチャイニーズスタイルではない。
服を指さしながら、
[which country style?]
[Thai figure!]
[Thai!!]
あらま! 間違ってタイレストランに入っちまったようだ。
通りで変だと思った店の作りも、新宿で見かけるタイレストランの雰囲気と一緒じゃないか!
勿論『馬』の着ている服も、この春にバンコクに行った時に、見てきたばかりじゃないか!
北京じゃ北京料理を食べるんじゃなかったの?
ちっちゃなショックを受けていると、食事が運ばれてきた。
たしかに魚のフライは、タイレストランで良く見かける『えぼ鯛』に似た魚だった。
蟹のボイルドフライは九州では『トラ蟹』、四国では『つ蟹』、本州では『わたり蟹』に似た種類の蟹だった。
その名の通り、一度茹でた蟹を油で揚げた物だった。
とっても美味いのだが素直に喜べない。顔だけは、横で見ている『馬』の為にも、笑ってはいるが……。
「ハオ・チュー!」
無理ににっこり笑いながら食べる物じゃない。笑った口の横から蟹がポロッと落ちてしまった。
それを優しく『馬』が拾い上げてくれる。
「ダメな子ね、お行儀が悪いんだから」
なんて、言うわきゃないだろう!
少し酔いが回ってきたかもしれない。すでに生ビールをジョッキでニ杯と、ウィスキーのストレートを二杯は飲んでいた。
いくら支払ったか良く覚えていないが、アルコール類は結構高いので、300元ぐらいだったと思う。
『馬』とも、記念写真を撮った。
『馬』は、上海の店で働いていたが、北京に支店を出すことになり、転勤してきたという。
おそらく二度と会うこともないだろうが、一期一会とは、よくぞ言ったものだ。

馬・艶艶 |
・『三里屯』(サンリートゥン)
ホテルまで歩いてニ〜三分のところなのに、懲りない俺はまたもやタクシーに乗り込む。
ガイドブックを指さした。
『三里屯』は、北京で一番バーの多い町と言われている。
少し先には、先日お茶を買った(買わされた?)、『全国農業展覧館』があり、更に先には、『朝陽公園』などがあり、外国人も沢山訪れるという。
ただ、そこに辿り着くまでに、タクシーが道を間違ってしまい、1本外れた路地裏に止まってしまった。
そこは、点在する街灯と満月の月明かりだけだった。
「なにやってんだ、ここじゃねェよ!」
と言っても「ハン?」としか返事しない。
「えーい、ままよ!」
と、22元を渡しタクシーを降りる。
だが、どっちに行けばよいのだ?
100m程先の道路を車のライトが頻繁に走っていくのが見えた。その方向に取り敢えず歩いてみた。
道路に出て右を向くと、珍しく信号の有る大きな交差点が見えた。
そこへ歩いていくと、三人の若い警官が立っていた。中国の治安が良いのは、こういった交差点や繁華街に、警官が立っているからだろう。
以前に行った、ニューヨークのタイムズ・スクエアに立っていた警官を思い出した。
その警官を捕まえて、ガイドブックを差し出し、ここはどこかと訪ねた。
勿論、言葉はまるで通じない。中々意味が分かってもらえず、
「どこに行きたいのか?」
みたいなことを何度も聞いていた。
二人の警官は、しばらく地図を見ていたが、
「全然わかんねェや!」
ってな顔をしてサッサと行ってしまった。
一番体の大きい警官だけが、地図を横にしたり縦にしたり、必死に考えていた。
「おう! 分かったぞ、ここだ、ここだよ!」
と、奇声にも似た声を発っした!
その声で、離れて立っていた同僚も駆け寄ってきた。
俺は、喜んで指を刺す地図を、三人の警官と必死に覗き込んだ。
駆け寄った警官が、
「お前良く分かったな!」
と、大きな警官の肩を叩いた。
俺も、自分の立っている交差点がどこなのかを、やっと理解した。
たった、それだけのことなのに(おっと、自分で頼んでいてそんな言い方はないか……)、喜ぶ三人。
俺も、白々しいほど大きな声で、
「シェイシェイ!」
と言いながら、皆と握手をした。
俺が強く握ったので、感謝が強く伝わったのか、まるで油田でも掘り当てたかのように、皆で喜んだ。
俺は手を振りながら目指す三里屯に向かって歩いた。
といっても、そこからたったの50mのところ。
交差点で立っていたところから、5mも歩いて横を見れば直ぐに分かったはずだ。
後ろを振り返ると、三人とも俺を見ていた。
俺が手を振ると、皆で手を振ってくれた。嬉しいけど、なんだか「こっぱずかしい!」っていう感じ!
・鴨ネギ!
さて、北京で一番バーが多いというだけあって、南北に200mほどの間に、ぎっしりとバーやライブハウスが並んでいる。
金曜日の夜も凄かったが、土曜日の夜もエキサイトしていた。
さて、どの店に入ろうかと探している内に、うっかりきょろきょろとしてしまった。例の『鴨ネギ』状態ではないか!
鴨ネギだもの、『猟師』が見逃すはずがない!
胸にメロンでも入れているかのような猟師? が近寄ってきた。
「アチャー! これを振り切るのは大変だぜ!」
例によって、中国語で捲し立ててくる。どっちみち理解できないから無視をする。
ダウンコートのフードを目深に被り、目だけを出して歩いていく。
それでも、何やら喋っていたが、いつの間にかいなくなっていた。
「案外、早く諦めたな?」
と、喜んでいたら、いつの間にか違う女(猟師?)が、逆側に立っているではないか!
今度は英語で捲し立ててくる。
先程の女が俺が外国人ということに気づいたのだろう、英語の出来る仲間にチェンジしていたのだ。
「ナイス連携プレー!」
なんて、感心している場合じゃないだろう!
今度の女は、背が170cm近くある。
思わず胸の谷間に目がいってしまった。その一瞬を逃すはずがない。
[SEX OK! No problem!]
不覚にも、その言葉で一瞬歩いていた足を止めてしまった!
さらに、いなくなったとばかり思っていたメロン女も、後ろで声を潜めて、鴨が飛び立つのを待っていたのだ!
あっと言う間に、俺の左腕の隙間に自分の腕を突っ込むと、逃げられないように巻きつけて来た。
驚いて左を見た瞬間、170cm女も、俺の右腕に自分の腕を巻きつけてきた。
鴨ネギなんてもんじゃない!
『捕まった宇宙人状態だ!』
「プゥヤオ(不要)! プゥヤオ(不要)!」
俺は大声で叫んだが、この程度で鴨を(宇宙人を)逃してなるものかと、掴んだ腕に更に力が入る。
「プゥヤオ! プゥヤオ!」
俺は、更に大きな声で叫んだ!
その声で、女達の仲間とおぼしき男達が、数人駆け寄ってくるではないか!
「ゲゲ! まずいなんてモンじゃないぞ、本当に身ぐるみ剥がされちまうぜ!」
女に暴力を振るうのは日本人として、してはいけないことだが、ここは仕方ない、女達をぶっ飛ばして逃げるしかない、と決心してポケットに突っ込んでいた手を引っ張り出した。
その瞬間、目の前まで駆け寄っていた仲間の男達の足が止まった。
「おっ! 以外とビビってんジャン! ここは、この勢いで男達も一辺にやっつけちまおう!」
と、女から両腕をほどくと、
「アチョー! アチョー!」
と、ブルース・リーのまねをして空手の格好をした。
それが、ばっちり効いたのか、女達も男達も一目散に逃げていく。
「へん! バカ野郎ども、日本人をなめんじゃねェぞ!」
と、逃げていく奴等の背中に罵声を浴びせてやった。
「何だか俺って、凄くない?!」
と、とっても偉くなったような気がして、鼻でフフンと笑いながら後ろを振り返った。
「ワァ!」
振り返った俺は、何かにぶつかり後ろにひっくり返ってしまった。
なんと、そこには先程握手をしたばかりの、警官が立っていたのだ。
「大丈夫か? ケガはないか?」
と言いながら、太い腕を俺に差し出して起こしてくれた。
「なんだよ、俺の空手にビビって逃げ出したんじゃないのか? チェッ なんだかがっくりしたな〜」
などと、舌打ちしながら、本心は助けてもらったことに感謝していた。
「シェイシェイ! シェイシェイ!」
と、先程よりも強く握手をする。
別の警官など、俺の肩を叩きながら、
「良かった良かった!」
と言っているようだった。
たった地図を広げた、言葉も通じないものどうしでも、何となく友情めいたようなものを感じる。
これも、一期一会なのだろう。
なんども頭を下げてお礼を言い、手を振って分かれた。彼達は、元の職場? へと帰っていった。
彼達に感謝をしながら、でも俺は帰らない。
当たり前です、目の前のライブハウスからナイスなミュージックが、ガンガン流れているのだから……。
・今度こそ、ライブハウス!
いつものように、ボーイに、
「イー・ガレン!」
と告げると、満席の店内の一席だけ開いているカウンターを指さした。
脱いだダウンコートを置くところが無いので、仕方なく膝の上に置く。
隣のイギリス人が、
「狭いところに入って来やがって!」
なんて顔をしている。もう、トラブルはごめんだ。
[I 'm sorry.]
俺はにっこりと笑った。相手は素知らぬ顔をした。
さて、2時間に1回の割合で約30分程のライブを行っている。
俺が、1杯目のジャックダニエルのオンザロックを飲んでいると、早速ライブが始まった。
吉田拓郎の若いときに似た男と、ムチムチした女二人の三人組だ。
音は、結構最新の『PA(音響機器)』を使っていて、ガンガンだぜ!
この拓郎がギターの名手で、サンタナの名曲、
『ブラック・マジックウーマン』
のギターソロを完璧に弾き切ったので、感動して指笛を鳴らしまくっちゃいました。
2回ライブを聴き終わった頃、俺はタクシーに乗りホテルに帰った。こうして北京最後の夜は、
“何事も無く無事に”終わってしまった。
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