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1999/07/21発信:一般向けニュース
■ アメリカセキュリティー視察ツアー・レポート その3
『NYPD』

NYPD:ニューヨーク・ポリス・デパートメントの略であり、ニューヨーク市警のことである。コミュニティ部門で十六年間務めた、ジョン・ローアン氏に話を聞いた。NYPDは153年もの歴史が有り、アメリカでは一番古く、模範モデルとされている。だが70年代に、28,000人から23,000人と2年間に5,000人もが、予算カットのためにリストラされてしまったために、その後、犯罪は急増していく。どんな犯罪でも立件するプロセスは同じ手間がかかるために、小さな犯罪を見逃し、おのずと大きな犯罪のみを取り締まる結果となっていった。
街には売春婦とドラッグの売人が溢れ、その金をピンはねするマフィアなどが、三年で倍々ゲームのように増えていった。その当時、ハーバード大学のキリング氏が、『ブロークン・ウインドゥ(割られたガラス)』と言う、理論を発表した。簡単に説明しよう。「町内で一枚のガラスが割られていたら、直ぐに対処しないと町中の全てのガラスが割られてしまう」と言うことである。その為には、一枚のガラスが割られたときに早急に対応しなければならず、その答えが、『ゼロ・トーレランス』(シビアな裁量)と言う、理論である。この二つの理論を実行するために、『コムスタット・コンピューター・システム』が考えられた。
『コムスタット』は、民間企業から学んだ情報システムを元に作られたシステムである。会議は我々が講義を聴いたこの部屋で5週間毎に行われ、七六分署から各々専任されたキャプテンが討論していく。ミーティング自体は二週間に一度行われている。本部長に、犯罪に対してどの様に対処したかを説明する。対処の仕方を失敗したり分からなかったりすると、皆でどの様にすべきかを話し合う。そして、次の5週間後にその結果を再度話し合う。話し合いで出た案は、その場で本部長によって決裁される。一々稟議を上げて数週間、あるいは数カ月も決裁が出るまでに時間がかかる、どこかの国とは大違いである。何も案が出なかったり、次の5週間後に対処できなかったキャプテンは、降ろされることとなる。この時に収集した情報をデーターベース化し、事前に犯罪発生を予測し防止するのである。

例えばジョン・ローアンは、まず最初に警察署の前に書かれている落書きを消すことを命じられた。20人掛かりで、三日で消した。そして落書きのアイデンティティを確かめ、情報化しコンピューターに打ち込んだ。落書きには必ず『タグ』(服などにも付いている商標のような物)が書かれていた。その為に、落書きをした犯人を捕まえることは簡単だった。だが、実際には逮捕せず、「今度同じようなことをしたら逮捕し、刑務所へ送り込んでやる!」と、強いメッセージを伝えただけである。その結果、94%も落書きを減らすことに成功したのだ。
その他、代表する三つの犯罪について説明を聞いた。
- 麻薬
麻薬の販売元は、ハーレムの北と、クィーン、ブルックリンの三カ所にあった。その三箇所を徹底的に見回り、その場所から追い出すことに成功し、激減することが出来た。
- ピストル
ピストルは自己防衛のためなら持っても良いが、特別本部の35人が、誰が買ったかを徹底的に調べ上げている。ある時、フロリダで154丁のマシンガンを買った不動産屋がいるとの情報が入った。その情報から三日後、ワゴン車にマシンガンを満載して帰ってきたところを逮捕した。
- 家庭内暴力
家庭内暴力(ドメスティック・バイオレンス)では、年間120件位の殺人事件が起きている。16年前には、被害者本人が告発しなくとも、裁判にかけて判決を下すことが出来たが今では出来ない。七六分署の全てに、一人はドメスティック・バイオレンス・カウンセラーがいて、色々な相談を受けている。
日本では難しいらしいが、ある家庭で暴力が行われているとの一般情報が寄せられると、必ず三回は訪ね、実態を調べるとのことだ。『コムスタット・コンピューター・システム』については、ジョン・ローアンから送っていただいた資料を、日本セキュリティー研究所で翻訳していただいている。担当者は、「これは凄いシステムだ!」と、興奮しているとのこと。近々皆様にもお知らせすることが出来るだろう。ここの会議室では、一年に4回『アップル・アソシエーション』という、ニューヨーク七六分署と、民間警備会社で出来た組合の会議も行われている。『アップル・アソシエーション』は、世界貿易センターの爆発事故があった事件の直後(1978年)に設立した。入会金などはいらない。当初は30社だったが、今では1,300社になっている。ここでは、ファーストネームで呼び合うほどフランクな雰囲気で、我々が訪れた数日前にも、450社が集まってミーティングを行っている。
会議の席にはガス会社や電話会社なども呼んでセミナーを行っている。情報交換はFAXを使っているが、7月からはEメールで写真などの交換も始める。各々が特別な無線機を持って連絡を取り合い、110番よりも素早いレスポンスを誇っている。警察OBが多いのでコミュニケーションが上手くいっているとのことだ。NYPDの地下室には、射撃訓練室とレクチャールームがある。警察官は一年に二回は必修科目を受講し、成績次第でIDカードの色が変わる。昔はコルト製だったが、今ではオーストラリア製の拳銃を使って、二ヶ月に六回の射撃訓練を行っている。柔道や空手などは、ポリスアカデミーの六ヶ月しか行わないので、担当官(名前を聞き忘れてしまった)の彼は、非常に残念とのことだった。
ちなみに彼は、柔道も空手も有段者とのこと。その彼に射撃訓練を見せてもらったが、グァムやサイパンで撃てるような代物ではなく、マシンガンをぶっ放した。間近で見せてもらったが、物凄い迫力だった。帰り際には、『NYPD』と書かれた、彼達が被っているキャップを頂いた。喜んで直ぐに被った私だったが、「この町でそれを被って歩くと、殺されるかもしれないから、やめた方がよい」と言われ、慌てて脱ぐとカバンに押し込んだ。冗談ではなく、ニューヨークでは、二日と半日に一人の割合で、警察官が殺されているのだから……。
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